60歳を迎えても、再雇用制度により働き続けられる時代になりました。
しかし現実には、「仕事があっても、役割がない」「誰にも頼られない」と感じ、戸惑いや孤独を抱える方が少なくありません。
そんな“無役化”の壁に直面したとき、どう向き合い、どう乗り越えればよいのでしょうか。
本記事では、再雇用後の不安や空白を乗り越え、自分らしい役割と働きがいを見出した8名の実例をご紹介します。
年齢に関係なく輝けるヒントが、ここにあります。
定年後の孤独に向き合う――“役割の空白”を埋めるために
定年後も働き続けられる制度が整いつつある今、60歳からの再雇用は当たり前になってきました。
しかしその一方で、「やることがない」「誰にも頼られない」と感じ、かつてとのギャップに戸惑い、孤独を抱える人も少なくありません。
まずは、その気持ちに正面から向き合い、自分なりの役割を見つけていくことが第一歩です。
村田さんもまた、その孤独からの一歩を踏み出しました。
再雇用後の仕事は、資料整理と電話対応だけでした。営業会議には呼ばれず、部下からの相談もなくなり、かつての活躍との落差に、深い孤独を感じていらっしゃいました。
ある日、若手社員が顧客対応で困っている様子を見かけ、「自分の経験が今も役に立つのではないか」とふと思われた村田さん。「任されるのを待つのではなく、自分から動いてみよう」と気持ちを切り替えられたのです。
顧客対応のコツを共有したことがきっかけで、徐々に信頼を取り戻していかれました。「村田さんに聞けば安心」と相談されることが増え、新たな役割と存在感を再び手にされたのです。
なぜ“居場所のなさ”を感じるのか――背景にある構造的な壁
再雇用されたものの、「自分だけが取り残されているのでは」と感じる人は少なくありません。
その背後には、年齢や能力とは別に、制度と実務のズレ、若返り人事、成果主義の浸透といった“構造的な問題”が存在しています。
こうした環境の中でも、自らの役割を見出し、乗り越えた人たちがいます。
次にご紹介するのは、田島さんと佐野さんが直面した現実と、それをどう乗り越えたのかという実例です。
最新設備が導入された部署に配属された田島さんは、これまで得意としていた機械操作や改善のノウハウが通用せず、若手社員との距離も遠く感じ、「自分はいてもいなくても変わらないのではないか」と悩んでいらっしゃいました。
そんなある日、若手社員が機械の不具合に戸惑っている場面に立ち会い、思わず声をかけたところ、田島さんのアドバイスが的確だったことで感謝され、「まだ自分にできることがある」と初めて実感されたのです。
この経験をきっかけに、田島さんはこれまでの知識や経験を整理し、技術ノートとして共有されました。やがて「田島さんに聞けば安心」と言われるようになり、職場での信頼と役割を取り戻されました。
再雇用されたものの、「仕事は特にないけれど、席は用意してある」と伝えられた佐野さんは、日々の業務がほとんどなく、自分の存在意義を見失いかけていらっしゃいました。
そんなある日、若手社員が経理処理でミスをしている場面を目にし、「自分ならこのミスを防げたかもしれない」と気づきました。その瞬間、「与えられないのなら、自分から役割をつくっていこう」と考え方を切り替えられたのです。
ミスを防ぐために、自ら仕組みを設計し、改善案とチェックリストを提案されました。その結果、若手社員のサポート役として周囲から評価され、職場での役割とやりがいを取り戻されたのです。
時代に合わせて、自分をアップデートする
かつての実績や経験に頼るだけでは通用しない――それが、再雇用後に多くの人が直面する現実です。
求められるのは、時代に合わせて「今のスキル」を自らアップデートする姿勢。
新しい学びに挑戦し、自分の強みを再構築した方々が、職場で再び存在感を発揮しています。
次にご紹介する佐野さんと浜田さんも、そうした変化に向き合い、自ら行動を起こした一人です。
パソコン操作が中心となった業務に戸惑っていた佐々木さんは、若手社員から「スプレッドシートでお願いします」と言われたものの、操作方法がわからず、自信を失ってしまいました。
帰宅後、「もう歳だから仕方ない」と諦めかけた時、「それでも、まだ職場で役に立ちたい」という気持ちが心の中に残っていました。
その思いを大切にし、学び直しを決意されたのです。行動を起こしたことで、未来が変わっていきました。
✅ 乗り越え方:Excel講座を受講し、学び直しを実践
基礎からしっかり学び直した結果、資料作成もスムーズにこなせるようになり、若手社員との連携も格段に向上しました。今では「頼れる先輩」として信頼される存在となっています。
新しい部署に配属された浜田さんは、何をすればよいのか分からず、会議でも発言の機会が与えられない日々が続いていました。かつての経験を活かせないもどかしさから、次第に自己肯定感を失っていかれました。
ある日、「昔、自分は何が得意だったのだろう?」と自問自答する中で、スキルの棚卸しを始めてみたところ、自分の強みと足りない部分がはっきりと見えてきたのです。
これまでの得意分野を再確認しつつ、データ分析や資料作成ツールを新たに学習。こうした努力が実を結び、再び企画メンバーとして抜擢されました。
与えられる役割”から“創り出す役割”へ
再雇用の現場では、かつてのように指示を待つだけでは存在意義を感じにくい時代になっています。
自分の強みや経験を自ら発信し、役割を創り出すことが求められています。
待つのではなく、動くことで道は開ける――そう実感したのが、三浦さんと岡田さんです。
彼らは、自らの意思と行動によって職場や地域に新たな価値をもたらしました。
再雇用されたものの、実際に与えられる仕事はほとんどなく、「ただ会社にいるだけ」という日々が続いていました。三浦さんは、無力感と寂しさを抱えながら過ごしていらっしゃいました。
そんなある日、新人社員が仕事に悩んでいる姿を見かけ、「自分の経験が役に立つのではないか」と考え、「OJT手引き」を自主的に作成することにしました。「待っているだけでは、何も始まらない」と気づいた瞬間だったのです。
手引きをもとに若手社員の支援を始めたところ、徐々に信頼を集め、研修も継続的に行われるようになりました。肩書きがなくても、“人を育てる存在”として、社内でしっかりと認められるようになったのです。
【事例⑦】岡田さん(63歳・元人事担当)
若手にアドバイスしても「それ、時代遅れ」と返され、かえって距離ができてしまった岡田さん。何をどう伝えればよいか悩んでいました。ある時、逆に若手の話を“黙って聞いてみる”ことに。すると少しずつ打ち解け、「聞いてくれてありがとうございます」と言われたことで、共感の力に気づきました。
相手の立場に立つ姿勢と、時代に合わせた学び直しで信頼を回復。「話しやすい存在」として周囲に受け入れられた。
社外に目を向けたとき、新たな自分に出会える
会社の中に活躍の場が見つからなくても、それは「終わり」ではありません。
視野を社外に広げることで、自分の価値や役割を再発見することができます。
地域活動やボランティアなど、社会とのつながりの中で“誰かのために動く”ことが、新たな生きがいや自信につながるのです。
木村さんはその一歩を踏み出し、自分らしい居場所を社外に見つけました。
再雇用後、社内では活躍の場が見つからず、「自分の居場所はもうないのかもしれない」と感じていた木村さん。
そんなとき、地域の掲示板で「子ども食堂ボランティア募集」の張り紙を見かけ、「ここなら自分にも何かできるかもしれない」と思い立ち、参加されました。思い切った一歩が、木村さんの世界を大きく広げることとなったのです。
子どもたちとのふれあいを通して、自分の強みや人とのつながりの大切さを再確認されました。何より、子どもたちの笑顔と「ありがとう」という言葉が、木村さんの自信と喜びにつながったのです。
まとめ:「役割がない」は終わりではない
再雇用制度によって60歳を過ぎても働き続けられる時代になりましたが、「役割がない」「頼られない」と感じる“無役化”の不安は多くの方が直面する課題です。
本記事では、そうした状況に悩みながらも、小さな気づきと行動によって新たな役割を見出した8人の事例を紹介しました。
スキルを磨き直す、周囲と対話する、地域に飛び出す――いずれも“与えられる役割”ではなく、“自ら創り出した役割”です。
定年後こそ、自分らしい働き方を再定義する好機なのです。
出典
- 厚生労働省「高年齢者雇用安定法」
- 総務省「人生100年時代構想会議」報告書