2024年の初め、東芝が国内で5000人の削減を発表したニュースが世間を驚かせました。
同じ時期、日産もリストラの対象として早期退職を実施する動きを見せるなど、大手企業の動向が注目を集めています。
これらの事例は、日本企業が急速に変化する経済環境と競争に対応するため、新たなリストラ戦略を模索していることを物語っています。
一方で、AIやデジタル技術の進化が業務を大きく変え、特定のスキルを持つ人材の需要を高める一方で、中スキル職種(注)の削減を進めています。
また、年齢や勤続年数に関わらず、能力や役割に基づく人材最適化が進み、従業員は新しいスキルを習得し続けることが求められています。
本記事では、リストラが企業や従業員に与える影響を過去と現在の比較、そして未来の予測を交えて詳しく説明します。
リストラとは
リストラは、もともと英語の「Restructuring(再構築)」を短くした言葉で、会社が良い方向に進むために仕組みや働き方を変えることを意味します。
本来は、会社を強くしたり、成長させるための工夫や計画を指しますが、日本では「人を減らすこと」というイメージが強くなっています。
リストラには、社員を減らす以外にも、部署を変えたり、別の会社で働いてもらうようにしたりする方法も含まれます。
赤字の会社だけでなく、儲かっている会社でも、もっと経営効率よくするために行われることがあります。
本当のリストラは、人を減らすだけではなく、会社全体を元気にするための方法なのです。
リストラの昔(1990年後半)と今(2020年代)
リストラは1990年代のバブル崩壊後、日本企業が長期不況に対応するために本格的に始まりました。
当初はコスト削減を目的とした人員削減が中心でしたが、時代と共に目的や方法が大きく変化しています。
本記事では1990年代後半と2020年代を比較し、対象者や背景要因、実施企業の特徴など5つの視点からリストラの違いをお話します。
リストラの目的の変化
リストラは時代によって目的や方法が大きく変わってきました。
昔(1990年代後半)
リストラは主にバブル崩壊後の長期不況を乗り切るために行われ、目的はコスト削減に集中していました。
特に赤字企業や業績不振に陥った企業が従業員削減を進め、経営を立て直すための緊急対策として実施。業績悪化を背景に、人件費削減がリストラの中心的な役割を果たしました。
これにより、雇用環境の悪化が社会問題化しました。
今(2020年代)
現在のリストラは、コスト削減だけでなく事業構造の再編や競争力強化を目指す戦略的な意味合いが強まっています。
黒字企業であっても、デジタルトランスフォーメーション(DX)を背景に、時代の変化に対応するため積極的に実施されています。
持続可能な成長を視野に入れた企業戦略として位置付けられています。
対象者の変化
リストラの対象者も時代によって大きく変化しています。
昔(1990年代後半)
リストラの対象は主に40代以上のベテラン社員に集中していました。
これは、年功序列による賃金制度を見直し、人件費を抑える目的があったためです。
特にバブル期に大量採用された中堅社員が主な対象となり、会社が終身雇用を続けるための妥協策として行われた側面もありました。
今(2020年代)
現在では、リストラの対象が30代の若手社員や勤続年数が短い従業員にも広がっています。
年齢に関係なく、能力や役割に基づいて選ばれるケースが増えているためです。
この結果、若手社員も新たなキャリアを考え直さざるを得ない状況が生まれ、働き方の選択肢が広がるようになっています。
実施方法の変化
リストラの実施方法も大きく進化しています。
昔(1990年代後半)
昔のリストラは、希望退職や早期退職制度を中心に、従業員自身に選択を委ねる形式が一般的でした。
また、業績悪化に伴い、賃金を引き下げたり雇用調整助成金を活用するなど、直接的な削減策が取られていました。
これにより、会社と組合員の間で緊張が高まるケースも結構ありました。
今(2020年代)
現在のリストラは「構造改革」の一環として、事業の売却や分社化と一緒に行われることが多く、企業全体の経営戦略の一部として位置付けられています。
また、再就職を支援するプログラムが一般的に提供されるようになり、従業員のキャリア支援に重点を置く傾向が強くなっています。
背景要因の変化
リストラの背景要因も時代とともに変化しています。
昔(1990年代後半)
バブル崩壊後の長い不況が続く中、働き手が多すぎる「過剰雇用」を解消する必要がありました。
また、日本独自の終身雇用制度の限界が明らかになり、リストラがその調整役として行われました。
この時代は国内市場を重視した経営が主流で、海外との競争の影響はそれほど大きくありませんでした。
今(2020年代)
現在では、グローバル競争の激化や技術革新が進む中、企業は業務の自動化やオンライン化、ビジネスモデルの再構築など、デジタルトランスフォーメーション(DX)への対応を迫られています。
こうしたDX対応こそが、現代におけるリストラの本質的な目的となっています。
さらに、政府の労働市場改革により、労働環境がより流動的になっているため、企業は競争力を維持するためにリストラを重要な経営手法として活用しています。
実施企業の特徴の変化
リストラを行う企業の特徴も大きく変化しています。
昔(1990年代後半)
リストラは、主に赤字企業や業績が悪化した企業が行うものでした。
経営危機を乗り越えるための「最後の手段」として実施され、企業が生き残るための「苦渋の選択」として捉えられていました。
そのため、社会的にもネガティブなイメージが強く、できるだけ避けられるべき手段と考えられていました。
今(2020年代)
現在では、黒字企業でもリストラを積極的に行うケースが増えています。
2024年には、早期退職を実施した上場企業の約60%が黒字企業だったとのデータもあります。
リストラは単なる経費削減ではなく、競争力を高め、持続的な成長を実現するための戦略的な手段として広く受け入れられるようになっています。
これからの10年で進化するリストラ:企業の変化と個人への影響
これまで、企業が行ってきたリストラは、時代背景や経済状況に応じてその目的や手法が変化してきました。
かつてのリストラは、不採算事業の整理や人員削減が主な目的でしたが、現代では、グローバル競争やデジタル化の波に対応するため、業務プロセスやビジネスモデルの抜本的な改革が中心となっています。
このように、リストラの意味そのものが進化を遂げてきた今、企業は次の10年間でどのような方向性を目指し、個人のキャリア形成にどのような影響を与えるか考えてみました。
AI時代に対応する新たな働き方と組織運営の変革
AIやロボットの普及に伴い、新たな働き方としてリモートワークやプロジェクト単位のチーム編成が広がっていくでしょう。
また、これにより、固定的な雇用関係から柔軟な契約形態や成果主義型の働き方へと移行が進んでいます。
組織運営面では、フラットな組織構造や迅速な意思決定が求められ、データ活用やデジタルツールを活用した効率的な管理が鍵となります。
このような変化に対応するため、企業は研修や人材育成に投資し、従業員の再教育やスキルアップを積極的に支援していく必要が出てきます。
ジョブ型雇用への移行
企業のリストラは、メンバーシップ型雇用から特定のスキルや専門性を重視するジョブ型雇用へと移行しています。
この変化により、専門スキルを持つ人材は重宝される一方、スキル不足の従業員はリストラ対象となる可能性が高まっています。
従業員には、必要なスキルを学び続け、市場価値を維持する努力が求められる時代です。
この新しい雇用形態に適応することが、個人のキャリア形成においてますます重要になっています。
年齢にとらわれないスキル重視の人材活用
企業は、年功序列に基づくリストラを見直し、年齢に関係なく必要な人材を優先的に残す方向へ転換していくと思います。
このため、30代の若手もリストラ対象となる可能性があり、全世代が自分の価値を再評価する必要があります。
事業変革と効率化を進める中で、企業は柔軟な人材戦略を採用し、従業員には年齢や役職に関係なく高い適応力とスキルが求められています。
この新しい時代を生き抜くためには、個々人が主体的に学び続け、成長を目指す姿勢が欠かせないことになるでしょう。
新しい職種の創出と再教育
AIが多くの仕事を代替する一方で、新しい職種も次々と生まれています。
特に、AIと人間の協働を管理する役割や、データ活用の専門職が重要視される時代になっています。
企業はこれらの分野に対応できる人材の育成を進め、従業員も新たなスキルを習得して変化に適応することが求められています。
このような変化の中で、リストラは単なる人員削減ではなく、新たな挑戦や成長の機会を生む重要なプロセスとなる可能性があると考えます。
成果主義の強化
企業は従業員の成果や貢献度を厳密に評価し、その結果に基づいてリストラを進めるようになります。
成果を上げられない人はリスクを負いやすくなる一方で、努力が評価される公平な仕組みが整う可能性があります。
従業員にとっては、自分の役割をしっかり理解し、期待に応える成果を出す姿勢がこれまで以上に重要になるでしょう。
まとめ
これからの企業が進めるリストラは、単なる人員削減ではなく、企業の持続可能な成長や競争力強化を目指した重要な戦略として位置付けらることになるでしょう。
これからの10年、企業はAIやデジタル技術を活用しながら、ジョブ型雇用や成果主義を取り入れることで、経営の効率化と人材の質的向上を目指すことになります。
一方、従業員には、自己の市場価値を高めるスキルの習得や柔軟なキャリア形成が求められます。
リストラが持つ社会的な影響は大きく、個人と企業の双方にとって変化への対応力が鍵となる時代が間違いなく訪れると思います。