職場を預かる管理職にとって、もっとも深刻で悩ましい問題のひとつが「働かないおじさん」への対応です。
彼らを見て見ぬふりで放置すれば、周囲の社員の士気は下がり、生産性の低下を招きます。
しかし一方で、改善の見込みが薄く退職を促そうとすれば、「パワハラだ」と逆に責められてしまうという現実もあります。
このような板挟みの状況に頭を抱えている管理職の方々に向けて、本記事では、まずは彼らを戦力として活かすための“正攻法”を紹介しつつ、やむを得ず厳しめの対応が必要な場合にどう進めるべきかという“現実的な選択肢”も解説します。
理想論ではなく、実務で使える具体策を整理しています。

うちにも正直あてはまる人がいるけど、どうにもできなくて困っています

大丈夫です。現場のリアルに即したアプローチを具体的にお伝えしますので安心して読んでくださいね
なぜ「働かないおじさん」が生まれるのか

「働かないおじさん」と揶揄される社員の多くは、かつては意欲的に業務に取り組んでいたはずです。
では、なぜ彼らは働かなくなってしまうのでしょうか。
この背景には、本人の性格や行動だけでなく、組織風土や制度面の問題も深く関わっています。
この章では、彼らの意欲低下の背景、構造的な職場の問題、そして個人の側にある要因の3つの視点から、その実態を紐解いていきます。

結局やる気の問題なんじゃないかな。本人の問題でしょ

そう見えるかもしれませんが背景には意欲を失う職場の構造や評価の不公平感が隠れていることが多いんです
意欲低下の背景を理解する
多くの「働かないおじさん」は、ただ怠けているわけではなく、何らかの理由でやる気を失ってしまっていることが多いのです。
長年同じ職場にいるうちに、自分の役割が変わらないままだったり、評価されにくくなったりして、「もう自分は職場で必要とされていないのでは」と感じてしまうことがあります。
さらに、昇進や昇給といった目に見える成果が得られないと、「頑張っても無駄だ」という気持ちが積み重なり、やる気がなくなってしまいます。
その結果、仕事に対する熱意を失い、自分から積極的に動くことをやめて、最低限の仕事だけをこなすようになります。
こうした状態を最近では「静かな離職(サイレント・クイッティング)」と呼びます。
実際には会社を辞めてはいませんが、気持ちの上では仕事から距離を置いてしまっているのです。
管理職としては、こうした状況の背景を理解し、ただ注意や指示をするだけでなく、本人のやる気を取り戻せるようなサポートが求められます。
職場の構造的な問題
「働かないおじさん」を生み出すのは、個人の問題だけではありません。
むしろ、企業文化や制度のあり方が大きな要因になっています。
特に、年功序列や終身雇用が根強く残る企業では、「一定の年齢まで勤めれば安泰」という意識が定着しやすく、能力や成果による評価がされにくい傾向があります。
また、業務の割り振りが慣例に従い、「ベテランは楽をして当然」といった空気が蔓延することもあります。
さらに、近年注目されている「ジョブ型雇用」への移行も、影響を与えています。
終身雇用のもとでゼネラリストとして育成されてきた社員にとって、突然「自分の専門性は何か」と問われることは大きなプレッシャーです。
これまでの経験だけでは対応が難しいと感じ、戸惑いや無力感につながるケースもあります。
また、管理職自身がベテラン社員に対して遠慮や諦めを感じ、適切な業務管理やフィードバックを避けてしまうことも少なくありません。
こうした構造的な問題は、個人の行動だけでは改善できず、組織全体での意識改革と制度の見直しが求められます。
本人に原因があるケース
もちろん、「働かないおじさん」と呼ばれる人の中には、本人の意識や態度に問題があるケースも存在します。
たとえば、過去の成功体験に固執し、新しい手法や技術を否定する姿勢は、変化の激しい現代の職場では大きな障害となります。
また、「自分の仕事はここまで」と線を引き、それ以上の責任や学びを避ける行動も見られます。
特に、ITツールの習得を拒否し、旧来のやり方に固執する傾向は、業務の効率化を妨げる要因となります。
これらは、長年の業務を通じて形成された固定観念が原因であることが多く、本人のマインドセットを変えることが必要です。
管理職は、単なる注意ではなく、本人の行動が職場全体に与える影響を具体的に示し、行動変容を促す工夫が求められます。
「働かないおじさん」を再び戦力化するための正攻法

「働かないおじさん」と呼ばれる社員も、適切なマネジメントと環境整備によって、再び職場の戦力となる可能性があります。
とはいえ、実際の現場ではその「再生」は決して簡単なものではありません。
管理職としての根気と忍耐、そして「少しでも会社に貢献できる存在になってほしい」という情熱が不可欠です。
ここでは、そうした想いを持つ管理職の方に向けて、取るべき具体的なアプローチを、効果が高い順に【正攻法1】〜【正攻法4】としてご紹介します。
それぞれの方法は単独でも効果がありますが、組み合わせて実践することで、より大きな成果が期待できます。
【正攻法1】1on1と対話による内省促進
「働かないおじさん」へのアプローチの第一歩は、本人との定期的な対話、すなわち1on1ミーティングを通じて意欲の源を探ることです。
長年の職場経験を持つ彼らの中には、かつての情熱を失ったことでモチベーションが下がった人も多くいます。
その原因を探るには、業務内容やキャリア観、評価への不満などを深掘りする必要があります。
1on1では、上司が一方的に指導するのではなく、本人に内省を促す問いかけが重要です。
たとえば、「今後どういう働き方をしたいか」「何があればもっと力を発揮できるか」など、将来を前向きに捉えるようなテーマが効果的です。
信頼関係を築きながら対話を重ねることで、自ら行動を変えようとする意欲が芽生え、職場での役割意識も高まります。
【正攻法2】公正な評価制度とモチベーションの再構築
「働かないおじさん」のモチベーション低下には、「どう頑張っても評価されない」という諦めが関係していることがあります。
これを改善するには、公正かつ透明性のある評価制度が欠かせません。
年功序列ではなく、業務成果や取り組み姿勢を正当に評価する仕組みを整えることで、努力が報われる職場文化をつくれます。
具体的には、数値化可能な目標設定(例:処理件数や新規提案数)や、四半期ごとのフィードバック制度が有効です。
また、評価は本人とのすり合わせを通じて納得感を持たせることが重要です。
努力や改善が適切に認識されることで、「自分もやれば評価される」と実感し、再び前向きな行動に繋がるのです。
【正攻法3】新しい役割・プロジェクトへのアサイン
「働かないおじさん」が意欲を失っている理由の一つに、長年同じ業務に従事し、変化や刺激がなくなっていることがあります。
こうした状況には、新しい役割やプロジェクトへの参加が有効です。
ただし、闇雲に負担を増やすのではなく、本人の強みや経験を活かせるポジションを提案することがポイントです。
たとえば、若手社員のメンター役や、業務改善チームへの参加など、本人が貢献を実感できるような役割が適しています。
経験が尊重される立場を与えることで、自尊心が回復し、再び職場に積極的に関わろうとする姿勢が生まれます。
加えて、業務に関する意見を積極的に求めることで、「期待されている」という認識が生まれ、行動変容にもつながります。
【正攻法4】スキルアップ機会の提供と動機づけ
時代の変化により、業務には新たなスキルが求められていますが、長年現場にいる社員の中には「今さら学ぶのは面倒」と感じる人もいます。
そのような心理を打破するには、実践的かつ目的が明確な研修を提供し、スキル習得の意義をしっかり伝えることが効果的です。
たとえば、「このIT研修を受ければ業務がラクになる」「評価や昇給に直結する」といった具体的なメリットを提示することで、参加の動機づけになります。
また、研修成果を評価制度と連動させることで、「学ぶことが自分のためになる」と実感させることができます。
さらに、受講後の業務で実際に成果を出せるよう、上司がフォローアップを行うことで、学習の定着と業務改善の両立が可能になります。
正攻法では変わらない場合の対処法

管理職が対話や支援、評価制度の整備など、あらゆる正攻法を尽くしても、なお対象社員に改善の兆しが見られない場合には、より踏み込んだ対応が必要になります。

ここまでやっても変わらなかったらもう限界です

だからこそ冷静で手順に沿った対応が必要なんです。本人の尊厳と会社の責任を両立させるために!
ただし、それは感情的な対応ではなく、会社として法令や就業規則に沿った、正式で客観性のある手続きを踏むことが不可欠です。
ここでいう「法的・組織的に妥当な手続き」とは、たとえば以下のようなプロセスを指します。
- 事実や問題行動を記録し、改善指導の履歴を残す
- 本人に対し、書面を用いた正式な注意・指導を行う
- 一定期間の改善猶予を設け、評価基準を明示する
- 産業医・人事部との連携を進め、第三者的視点で状況を確認する
- 人事考課に基づいた配置転換や役割見直しの検討を行う
これらのステップは、単に処分のためではなく、最終的に退職勧奨へ進む可能性がある場合にも、会社として正当に説明できる状態を整えるためのプロセスでもあります。
【ステップ1】業務記録と評価の「見える化」
厳しめの対応を取る前に不可欠なのが、「働いていない」という印象を、客観的なデータに基づいた事実に変換する「見える化」です。
日々の業務成果や行動の記録、報告の有無などを体系的に残すことで、第三者が見ても納得できる証拠を整えます。
たとえば、週次の業務レポートや作業チェックリストの運用、目標と成果のギャップの定量的記録が効果的です。
こうした資料は、本人への指導に活用できるだけでなく、のちの配置転換や退職勧奨の根拠としても活用されます。
まずは「事実ベースの整理」が、次のステップへの土台を作ります。
【ステップ2】行動改善のための注意喚起と面談記録
「見える化」によって問題点が明らかになったら、本人への正式な注意喚起を行います。
この段階では、口頭だけでなく書面によるフィードバックが必須です。
まずは、何がどのように問題か、何をどう改善すべきかを明確に伝えたうえで、面談記録として残します。
さらに、改善期限や中間評価日を設定し、行動改善のための明確な指針を提示します。
本人にも記録内容を共有し、認識のずれをなくすことが重要です。
このステップをしっかり実施することで、後の配置転換や厳しめの処置に対する「納得性」を高めることができます。
【ステップ3】役割縮小・配置転換による働きかけ
注意喚起後も改善が見られない場合、次に実施すべきは役割の縮小や配置転換です。
たとえば、チームの中心から外し、重要度の低い業務へシフトする、あるいは単独作業が中心の部門へ異動させるなどが考えられます。
これは懲罰ではなく、本人に現状の厳しさを自覚してもらい、新しい環境で再スタートするための「再起の機会」として実施します。
目的と意図を明確に説明し、「改善を期待している」という姿勢を示すことが大切です。
管理職としては、配置転換後も定期的なフォローを行い、改善の余地がないかを慎重に見極めていく必要があります。
【ステップ4】最終手段としての退職勧奨
配置転換後も状況が改善せず、組織への影響が看過できない場合、最終手段として退職勧奨を検討します。
これは懲戒解雇ではなく、本人の意思による円満な退職を目指すプロセスです。
そのためには、過去の注意記録や評価データ、配置転換歴などの客観的な根拠を整えた上で、冷静かつ丁寧に状況を説明することが必要です。
あくまで本人が納得のうえで選択できるようにし、決して強制とならぬよう注意を払う必要があります。
また、今後のキャリアへの配慮としては、本人の希望や適性に応じて、再就職支援サービスの案内や、資格取得・職業訓練の情報提供、ハローワークやキャリアカウンセラーとの連携などを行うことが望まれます。
必要に応じて、人事部が転職活動の相談に応じたり、職務経歴書の作成を支援することもあります。
こうした支援は、本人の不安を和らげ、次のステップを前向きに踏み出すきっかけとなります。
退職勧奨は「終わり」ではなく、「新しい道の提案」であるという認識を持ち、本人の尊厳と未来に対する誠意ある姿勢が何よりも大切です。
組織としての仕組みづくりと予防策

「働かないおじさん」問題は、個人の資質だけでなく、組織の仕組みや文化が生み出す構造的課題でもあります。
したがって、事前にこのような社員を生まない仕組みづくりが求められます。
成果重視の評価制度の定着、キャリア開発の支援、継続的なスキルアップの仕組み、そして何より管理職自身のマネジメント力強化が鍵となります。
未来志向の組織づくりに向けて、具体的な予防策を紹介します。
【予防策1】評価制度の見直しと評価者の育成
年功序列型の評価制度は、一定年齢に達した時点で「もう頑張っても意味がない」という感覚を社員に与え、努力の意義を失わせる原因になりがちです。
これに対し、成果主義をベースにした評価制度は、年齢や在籍年数に関係なく「頑張れば報われる」環境をつくり出します。
具体的には、個人の目標を明確に設定し、達成度に応じて昇給や役職登用のチャンスを与える仕組みが効果的です。
定量・定性の両面で評価軸を整備し、定期的にフィードバックを行う体制があれば、公平感のある評価が実現できます。
しかし、いくら制度自体が優れていても、評価を行う上司や管理職が主観的・いい加減な運用をしてしまえば、その制度はすぐに形骸化してしまいます。
制度設計と同じくらい、評価者に対する教育・指導も極めて重要です。
評価基準の共通理解、フィードバックの質、評価面談の進め方など、評価者自身の成長が制度の信頼性を支えます。
こうした制度と運用体制がしっかり根付き、組織として「常に成長を求める文化」が形成されていくことで、社員の意欲低下を未然に防ぐことができます。
【予防策2】 キャリアマネジメントの導入
社員が長期にわたってモチベーションを保ち続けるには、将来に対する見通しと希望が不可欠です。
そこで重要になるのが「キャリアマネジメント」の導入です。
これは、社員一人ひとりのキャリアビジョンを把握し、それに応じた成長機会や業務を提供する仕組みです。
例えば、定期的なキャリア面談を通じて「どのような仕事をしていきたいか」「どのスキルを伸ばしたいか」といった意向を聞き取り、それに合わせた配置や研修を計画します。
さらに、日頃から1on1ミーティングの場を活用して、少しずつでも本人にキャリアを意識させ、将来について話し合う習慣を持つことが大切です。
キャリアについて急に問いかけても、答えられない人は少なくありません。
普段から信頼関係の中で小さな対話を積み重ねることで、社員自身が将来の姿を考えるきっかけになります。
キャリアが描けない社員ほど、目の前の業務を惰性でこなす傾向にあるため、意識的な支援が重要です。
キャリアの自律を支える制度は、「働かないおじさん」予備軍の発生を抑止する強力な武器となります。
【予防策3】継続的な研修とアップデート機会の提供
変化の激しい現代の職場では、スキルや知識を「学び直す力」が不可欠です。
しかし、ベテラン社員ほど「自分はもう学ばなくてよい」と考えがちです。
これを防ぐには、継続的な研修制度を整え、社員全体が常にアップデートされる仕組みが必要です。
業務に直結した実践的な内容(例:業務効率化ツール、業界動向、リーダーシップスキルなど)を中心に据え、定期的な参加を促すとともに、研修が評価や処遇に連動する設計が効果的です。
特に管理職が率先して研修に参加することで、学習文化が組織全体に浸透し、学ばない・変わらない風土を一掃するきっかけになります。
【予防策4】管理職自身のマネジメント力の向上
「働かないおじさん」を生まないためには、管理職自身のマネジメント力が重要な鍵を握ります。
対話力、評価力、育成力といったスキルは、年齢や経験だけで自然に備わるものではありません。
むしろ、時代や人材の多様化に対応するため、管理職も常に学び続ける必要があります。
具体的には、1on1の進め方、部下のタイプ別対応、フィードバック手法など、実践的なトレーニングが効果的です。
また、自分のマネジメント行動を内省し、改善する仕組み(例:上司からのフィードバック、管理職同士のケース共有会)を導入することで、継続的な成長が可能になります。
マネジメント力の底上げが、組織の健全化に直結します。
まとめ

「働かないおじさん」問題は、管理職にとって非常に重く、簡単に解決できるものではありません。
その背景には個人の心理的な問題だけでなく、組織の評価制度や企業文化、マネジメントの在り方といった構造的な課題が複雑に絡み合っています。
しかし、「重い問題だから仕方ない」「波風を立てたくない」といって放置することは、絶対に避けるべきです。
放置すれば、職場の士気や生産性に深刻な悪影響を与えるだけでなく、真面目に働いている社員のやる気まで奪ってしまいます。
本記事では、まずは1on1を中心とした対話による内省促進、公正な評価制度、新しい役割の付与、スキルアップ機会の提供といった「正攻法」を提示しました。
これらは、社員が再び前向きに働くきっかけを与える重要なステップです。
それでも改善が見られない場合には、組織として法的・組織的に妥当な手続きを踏んだ上での段階的対応、最終的には退職勧奨も選択肢に含めるという現実的な対処も解説しました。
すべては、本人の尊厳を守りながらも、組織の健全性を維持するための手段です。
そして何より大切なのは、管理職としての「情熱」と「覚悟」です。制度が整っていても、実際に向き合う人間が本気でなければ、意味をなしません。
根気と忍耐、そして「なんとか再生してほしい」「少しでも戦力になってほしい」という熱意こそが、最終的に社員の行動を変える最大の要素となります。
職場の未来をつくるのは、管理職一人ひとりの対応の積み重ねです。

本当に変わるんだろうか自分にできるのか不安です

一歩ずつで大丈夫です情熱と誠意を持って向き合うあなたの姿勢こそが未来を変える力になります
「働かないおじさん」を責めるのではなく、組織とともに育て直す姿勢を持ち、誠実に向き合っていきましょう。


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