人工股関節置換術は、患者の状態や主治医の判断により、前方アプローチと後方アプローチという2つの異なる手術方法が選択されます。
私は左脚を後方アプローチ、右脚を前方アプローチで手術を受けました。
左脚の手術は長時間にわたり、残念ながら深部感染という大きな課題に直面しました。
この経験を踏まえ、主治医は、右脚では感染リスクを最小限に抑えるため、前方アプローチが選びました。
その結果、手術は成功し、感染も防ぐことができました。
特に右脚の手術は、医療の現場で学術的な価値が高い(難易度の高い状態の股関節を前方アプローチで成功させた)とされ、学会で発表されました。
本記事では、これらの手術方法の違いや、私自身の経験を通じて得た知見を詳しく解説します。
人工関節手術を考えている方や選択肢に悩む方々にとって、一助となれれば幸いです。
人工関節置換術とは
人工関節置換術は、損傷した関節を人工材料で置き換え、痛みを軽減し機能を回復する手術です。
人工関節は金属やセラミックなどで作られ、関節症や大腿骨頭壊死症などが主な適応疾患です。
固定方法には、骨と直接結合するセメントレス固定や、骨セメントを使用するセメント固定があり、患者の骨状態に応じて選ばれます。
術後は感染予防や血栓症対策が重要で、人工関節の寿命は一般的に15~20年です。
手術の適応や方法は、個別の状況に基づき慎重に判断されます。
最近では、65歳以下でも、インプラントの進化によって、手術が行われることがあります。
年齢や症状に応じて、整形外科医としっかり相談することが重要になります。
前方アプローチと後方アプローチの違い
人工股関節置換術には、前方アプローチと後方アプローチがあります。
前方アプローチは股関節前面を切開し、筋肉や腱を切らずに進入するため、術後の脱臼リスクが低く(0〜1.0%)、早期回復が期待されます。
一方、後方アプローチは短外旋筋群を切開する方法で、手術が容易であり、重度の骨変形や再置換術に適していますが、脱臼リスクがやや高い(1〜9.5%)特徴があります。
どちらの方法を選択するかは、患者の状態や手術の目的、医師の経験を基に決定します。整理すると以下の表になります。
左足は後方アプローチを適用
左足の人工関節置換術を後方アプローチで行いました。
左足の股関節の状態が悪かったので、手術中の視野を広くとり、壊れすぎた骨の修復のために、後方アプローチを選択したと主治医から説明がありました。
以下の記事は、後方アプローチの説明と手術前の準備からリハビリについて書いた記事になります。
人工関節置換術を受ける予定の方には、一連の流れがわかります。興味のある方は、是非読んでみてください。
右足は。前方アプローチを適用
右足の人工関節置換術は、左足とは異なり、前方アプローチで行いました。
前方アプローチは股関節の前側から手術を行う方法で、筋肉を切開せずに関節にアクセスできるため、術後の痛みが少なく、回復が早いのが特徴です。
また、脱臼のリスクも低く、患者の早期復帰が期待できます。
なぜ前方アプローチ股関節置換術が選ばれたのか
主治医が前方アプローチを選んだ理由は以下の4点だと思われます。
深部感染の予防
まず、第1にあげられるのは、左足の人工関節置換術後に深部感染を経験したことから、主治医は感染予防を最優先に考え、前方アプローチを選択しました。
この方法は手術部位への負担を最小限に抑え、組織の免疫機能を保つことで感染リスクを軽減する狙いがあります。
また、侵襲を抑えることで回復を促進し、合併症の発生を防ぐ効果が期待されるためです。
脱臼リスクの低減
前方アプローチは脱臼率が0〜2.2%と低く、後方アプローチの1〜9.5%と比較して安全性が高いとされています。
そのため、主治医は、脱臼リスクが低い前方アプローチを選択することで、術後のトラブルを減らし、患者の回復をより確実なものにする方針を取ったと考えられます。
筋肉・腱の温存
前方アプローチでは、筋肉や腱を切らずに股関節まで到達できるため、術後の筋力低下やリハビリの遅れを防ぐことが目的だったと思います。
術後の安定性向上
仰臥位で手術を行う前方アプローチは、人工関節の設置をリアルタイムで確認できるため、精密な手術が可能になります。
入院から退院までのプロセスとリハビリ
2016年11月21日に入院し、翌日の11月22日に手術を受けました(15時~18時30分)。
手術後、主治医から「成功したよ」と言われ、ほっとしました。
術後の経過
- 術後2日目:足のドレーン(血抜き)と麻酔のドレーンを抜き、痛みはありませんでした。
- 術後3日目:尿の管が取れ、車椅子でトイレが許可されました。
- 術後4日目:歩行器訓練開始。
- 術後8日目:リハビリ室で松葉杖の歩行訓練開始。
- 術後9日目:松葉杖で左足に100%荷重開始。
- 術後15日目:松葉杖を1本にして病院の外を1周。
- 術後17日目:抜糸とシャワーの許可が出ました。
- 術後20日目(2016年12月12日):退院。傷口はきれいで深部感染の兆候はありませんでした。
退院後の経過
リハビリも順調で、深部感染もなく、2017年1月の診察時には杖を使わなくてもよいとの指示が主治医から出ました。
30歳から62歳で人工関節手術が終わるまで、ずっと杖を使用していましたが、30年たってやっと普通の歩行ができるようになりました。
61歳で生活の質を向上させるために行った人工関節手術の決断は、自分にとって間違っていなかったと実感しています。
まとめ
右足の人工関節置換術において、前方アプローチを選択した結果、深部感染を回避し、無事に手術が成功しました。
この方法の利点として、筋肉や腱を切らずに進めるため、術後の回復が早く、脱臼リスクも低いことが挙げられます。
対照的に後方アプローチは視野が広く、複雑なケースに適している一方、脱臼リスクが高めです。
この記事では、前方アプローチの選択理由や体験談を通じて、人工関節手術を検討中の方が参考にできる情報を詳しく解説しました。
手術方法の違いやリスクを理解し、医師との相談に役立ててください。